「大阪のおばちゃんの飴の所持率は?」 多様な質問への調査プロセスを全国で共有、図書館のデータベース活用術
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「大阪のおばちゃんの飴の所持率は?」 多様な質問への調査プロセスを全国で共有、図書館のデータベース活用術

PKSHA Communicationマガジン

株式会社PKSHA Communication(パークシャ コミュニケーション)が、さまざまな企業のナレッジマネジメントやDXの取り組みを紹介するマガジン『ひとりの「知ってる」を、みんなの「知ってる」に』。第9回は、図書館業界のナレッジシェアについて、国立国会図書館が提供するプラットフォームの事例を紹介します。

図書館には、利用者から調べ物の相談を受け、図書館員が参考図書や情報源を案内する「レファレンス」というサービスがあります。

全国各地の図書館に日々寄せられる、多種多様な質問。こうしたやり取りを記録し、インターネット上で一般公開しているのが「レファレンス協同データベース」(以下、レファ協)です。

このデータベースでは、利用者の質問に対して、図書館員がどのようなプロセスで調査し、どんな情報を紹介したのかが記録されています。14万件以上の事例がインターネット上に公開され、図書館員だけでなく誰でも閲覧できるのが特徴です。

レファ協の目的と運用後の効果について、国立国会図書館レファレンス協同データベース事業事務局の平澤大輔さん、藤田順さん、戸鹿野陽子さんに伺いました。

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(左から)藤田順さん、戸鹿野陽子さん、平澤大輔さん(写真提供:国立国会図書館)

全国の図書館員の調査スキルを共有する

――「『大阪のおばちゃん』の飴の所持率」なんて、いざ聞かれたら困ってしまいそうです。もともと図書館員は、質問に答えるスキルをどうやって身につけてきたのでしょうか。

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レファレンス調査には基本のやり方があり、司書課程や研修などで学びます。その後は、図書館の利用者とやり取りをする中で、図書館員が個々にスキルを磨いていきます。実地経験を積むことで知見は深まっていきますが、その技術がほかの図書館員に伝わりにくいことも。もちろん、各図書館でOJTや研修が行われてきましたが、他の図書館と知見を広く共有するのは難しい状況がありました。

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そもそも、レファレンス調査はスキルを一般化しにくい分野でもあります。おおまかな調べ方は図書館員同士で共有できても、結局は一人ひとりの利用者とのやり取りなので、知見を蓄積しにくいのも確かです。

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レファレンスサービスでは、利用者のさまざまな質問に対して図書館員が資料を案内する。図書館のカウンターほか、電話やメールなどで対応することも。(写真提供:国立国会図書館)

――属人的なナレッジがたまりやすい業務なのですね。利用者からの質問や回答プロセスは、各図書館が記録しているのでしょうか。

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記録が行われていなかったり、紙に記録していたりと、記録の有無や方法は図書館によります。紙に書かれていると、過去の事例を参照しにくいのが難点です。一部ではレファレンス記録をデータベース化して共有する試みもありましたが、限られた範囲のデータでは真に業務に役立つ規模にはなりません。

また、図書館にはさまざまな館種があります。地方自治体が運営する公立図書館、大学図書館、あるテーマに関する資料を集める専門図書館などです。各館の知見にもとづく多様なレファレンス事例を記録・共有できるような、全国共通のデータベースが必要だったのです。


「柔軟性」と「連携機能」を持つシステムを設計

――2002年に国立国会図書館の関西館が誕生し、同年にレファ協の実験事業を開始。3年後の2005年に本格事業化し、インターネット上で一般公開されました。誰もが利用できるデータベースの設計は、どのように進んだのでしょうか。

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まずは図書館の調査事例をデータベース化する取り組みがどれほど有効なのか、大きく4つの観点で検証しました。

業務の効率化 …… 各図書館のレファレンス業務の改善にどれほど役立つか?
図書館間の連携 …… データベースを軸にして各図書館がどのように協力できるか?
標準フォーマットの策定 …… どういった形式で記録するべきか?
データベースの公開範囲 …… レファレンス調査記録の一般公開がどれほど役立つか?

先行事例の調査や、各図書館へのアンケート調査、有識者や関係機関へのヒアリングを重ねて検証を進めていきました。

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国立国会図書館の電子情報サービスの拠点としての機能を持つ関西館(写真提供:国立国会図書館)

――検証の結果、データベースにどのような特徴をもたせましたか。

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多くのデータを蓄積するため、事例登録のハードルを下げる必要がありました。入力時の必須項目は、「質問(利用者にどんなことを聞かれたのか)」、「回答(どう答えたのか)」、管理番号の計3つに絞っています。

もちろん、それ以外の細かな項目も埋めてもらうことで充実したデータになるのは間違いありません。ただ、作業負担の大きさからデータ登録数が伸び悩むと、真に有用なデータベースとなることは難しい。登録のしやすさは意識しました。

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ちなみに、登録データの公開範囲も選べます。一般公開はもちろん、公開範囲を自館のみに限定してスタッフ間のメモ代わりにしてもOKです。参加館が運用方法を柔軟に選べるよう工夫しています。

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登録事例へのコメント機能もつけました。登録事例には、利用者からの質問に十分な回答ができなかった「未解決事例」もあります。それに対して、「◯◯の情報はこの本に書いてあります」など他館から有用なコメントが寄せられると、図書館員の調査スキルが向上しますし、利用者がよりよい情報を得られることにつながります。

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平澤大輔さん(写真提供:国立国会図書館)

運用開始から20年、蓄積データで活用広がる

――レファ協の実験事業を開始して約20年が経ちました。現在の運用状況と運用後の効果について教えてください。

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2022年3月現在、全国の881館が参加しています。当初は公共図書館、大学図書館、専門図書館が対象でしたが、2013年からは範囲を広げて学校図書館も参加しています。

事業の立ち上げ時から期待していた、業務の効率化、各館の連携強化、広報効果は、まさにねらい通りになったと言えます。図書館員にとっても、規模や特性の異なる多くの図書館の事例をもとに、レファレンスサービスの向上を目指せます。

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レファ協の公式Twitterアカウントには現在5.2万人のフォロワーがいて、影響力が大きくなりました。レファレンスサービスを知らない人に「図書館ってこんな質問にも答えてくれるんだ」と情報が届き、図書館サービスの認知向上につながっています。それを各地の図書館員が見て、「うちの館もデータベースを活用しよう」とレファ協への参加を検討した、という話も聞いたことがあります。

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藤田順さん(写真提供:国立国会図書館)

――その他に、レファ協の運用を続けることで生まれた副次的な効果はありますか。

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図書館の現場のみならず、図書館業界の教育・研究の場でも活用されています。レファ協のシステムでは、研修用の環境を別に用意しており、図書館の研修や司書課程などの教育現場で役立ててもらっています。また、全国の図書館から集まる多くのデータは、機械学習で自動的に分類するといった情報学分野の研究にも活用されるなど、立ち上げ当初には想定していなかった効果もありました。


「実績の見える化」でデータ登録のモチベーションアップ

――データベースの運用には、全国の図書館の協力が欠かせません。事例登録のモチベーションを高める工夫はありますか。

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多忙な図書館員にデータを登録してもらう上で、モチベーションアップはひとつの課題だと思います。国立国会図書館では2008年から、その年に多くのデータを登録してくださった参加館に、感謝の意を込めて御礼状を送るようになりました。実際に参加館のモチベーションにつながっているという声を多くいただいています。

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「自館が登録した事例がTwitterで取り上げられてうれしい、データ登録のモチベーションになる」という声も多いですね。図書館で働く人がレファ協のTwitterアカウントをフォローしてくださって、気になる事例を毎日チェックし「これはどうやって回答したのだろう」と仕事に役立てている、とお聞きしたこともあります。

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戸鹿野陽子さん(写真提供:国立国会図書館)

――図書館にとっては実績が目に見える形になりますね。逆に、現在レファ協への参加が難しい図書館にはどのようなハードルがあると考えられますか。

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まずはレファ協の存在と効果が知られていないと、業務で取り組む意味を感じにくいというのが一つ。知っていたとしても、上司や運営元の組織を説得できるだけのメリットを提示できないと参加が難しいのだと思います。もう一つ、現場のスタッフには、続けられるかどうかの不安もあるでしょう。図書館員1人にかかる業務負荷が高い現場では、モチベーションのある担当者がレファ協へのデータ登録も頑張っていたけれど、次の担当者になると活動が止まってしまう、というケースもあります。

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参加館を増やして事例登録を続けるには、登録作業の負担を減らすような業務上の工夫も共有するのが重要です。フォーラムや研修会を開き、参加館や受講者同士で意見交換する場を設けています。具体的なアイデアや取り組みを共有する機会は、なるべく多く作っていきたいですね。

――今後、取り組んでいきたいことを教えてください。

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さまざまな種類の図書館による協同が、この事業の大きな特徴のひとつ。引き続き、参加館数とデータ登録数の拡大に向けて活動します。システム面でも細かな改修を重ね、現場の負担を機能面から減らしていきたいです。ユーザビリティのさらなる向上も大切ですね。運用を続けて多様なデータを蓄積し、これまで以上に多くの図書館員と利用者が活用できるシステムを目指していきます。

※新型コロナウイルス感染症のリスクを考慮し、一定の距離を保ちながら、撮影時のみマスクを外して取材を行っています


取材を振り返って

図書館のレファレンスサービス、利用したことはなかったのですが、以前「覚え違いタイトル」がインターネット上で話題になっていたのをきっかけに、そういったサービスがあることを知りました。レファ協のTwitterアカウントを見ましたが、本当にさまざまな質問があり、自分がもしこの質問をされたらパッと答えられるだろうか……そんな気持ちで見ていました! 人によって得意ジャンルや知識量は異なるので、レファレンスサービスは担当する図書館員の裁量に委ねられることも多いと思います。共通データベース化は、図書館員の業務効率化はもちろん、利用者にとってもサービス向上になって素晴らしい取り組みですね。20年も前からデータを蓄積し、今後もどんどん増えていくと思うので、さらなるデータ活用が楽しみです。(PRAZNAマガジン編集部 佐藤さやか)

取材・文:森夏紀 /ノオト 編集:ノオト


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